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特集2021年3月23日

田中幸夫世界銀行 水グローバルプラクティス 東部?南部アフリカ地域担当 上級水資源管理専門官~第57回 世银スタッフの横颜インタビュー

「プロとして現場に帰ってくる。農村が抱える問題に何か貢献する。」 バングラデシュの旅で胸に抱いた志を貫き、東京大学の教員からJICAの総合職へ、そしてまた裸一貫で世界銀行の専門職へと、水のプロとしての人生を自ら切り開いていく田中さん。 物腰は静かな水面のようでありながら、彼が行くところには水が豊かに注ぎ、その勢いは止まるところを知らない力強さを感じる。「上級水資源管理専門官」の言葉の響きからは想像もつかない、冒険と挑戦と勇気に溢れたキャリアを持つ、水の専門家の素顔に迫る。

Yukio Tanaka

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「プロとして現場に帰ってくる。農村が抱える問題に何か貢献する。」 バングラデシュの旅で胸に抱いた志を貫き、東京大学の教員からJICAの総合職へ、そしてまた裸一貫で世界銀行の専門職へと、水のプロとしての人生を自ら切り開いていく田中さん。 物腰は静かな水面のようでありながら、彼が行くところには水が豊かに注ぎ、その勢いは止まるところを知らない力強さを感じる。「上級水資源管理専門官」の言葉の響きからは想像もつかない、冒険と挑戦と勇気に溢れたキャリアを持つ、水の専門家の素顔に迫る。

人生の方向を示したのは、バングラデシュ1カ月の旅

もともとは、漠然と环境问题に兴味を持って大学に入学し、外国人留学生と仲良くなり、彼らの国に行ってみたくなりました。そこで大学1年生の终わりの春休みに、初めての海外旅行でバングラデシュに1カ月滞在したのが、开発を目指すきっかけになりました。働き者でも、农业生产から得られる赁金は仅かで、あらゆるものを犠牲にして子供の教育费を捻出して贫困からの脱却を図る人々の姿を目の当たりにし、顽张った人には然るべき报いがある社会ができるべきだと、それを実现するためにプロとして帰って来たい、との思いを胸にバングラデシュを去りました。

东京大学では3年次から専门分野を决めるのですが、私は农学部の农业土木と言われる分野に焦点を定めました。学んでいくうちに、途上国の农村の発展を阻んでいるのは生产性の低さであり、その原因として农业生产のための水が不足していたり、水を配分するシステムが整备されていないなどの问题があることに気づき、図らずも水が自分のキャリアの中で大きな柱になっていきました。水の分配制度などは社会的なものなのですが、例えば「どのぐらいの水がその地域にあり、どのぐらいが消费されているか」といった情报は工学的なアプローチで分析する必要があります。そこで博士课程からは対象を国际河川を巡る国家间の水争いに広げ、かつ工学的アプローチを取り入れ、宇宙から地上を见て、その地域の植物の繁殖状况や水の利用状况を分析するという、卫星リモートセンシングを用いた研究に取り组みました。

学生から大学教员に

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ルワンダ?キガリにてNile Basin Initiativeのメンバーと。
ただ、现场の问题を见ずに头でっかちになりたくなかったので、修士と博士课程の间に1年间、国连环境计画(鲍狈贰笔)でインターンとしてフルタイムで働きました。バンコクの事务所でプロジェクトマネジメントをしながら、现场を経験した上で博士课程の研究を始めました。

そんなわけで27歳まで学生をやっていたのですが、途中で、思いがけず自分にとってぴったりな助教职の公募があり、运よく採用されたため、2007年から2012年までの5年间、东京大学大学院新领域创成科学研究科?国际协力学専攻(2008年以降は総括プロジェクト机构「水の知」(サントリー)総括寄付讲座と兼任)で教育と研究に携わりました。

また助教时代には、学生时代から有志でやっていた水勉强会を発展させた「东大水フォーラム」の设立?运営に携わりました。水には、饮用水、农业用水、洪水、国をまたぐ国际河川问题など様々な侧面があり、各分野の研究が相互に缓く関係しています。そこで、当时东大に水に関する寄付讲座を设立していたサントリーと连携して分野横断的に研究者同士でセミナーを通して情报交换し、书籍を出版したりしました。この経験を通じて横方向に水に関する知识体系を広げたことが、结果的に后のキャリアにおいて、灌漑のみにとどまらない、水に関する幅広い分野を扱う素地となりました。

プレイヤーを目指して転职

大学の仕事はとても面白かったのですが、研究という性格上、过去に起きた事象(水争い)の事后検証が中心で、この道を志した时の「プロとして现场に帰ってくる」という思いが満たせないことへのフラストレーションも感じていました。私は人生の岐路に立った际に水辺を见ながら沉思するという习性があるのですが、教员生活5年目に差し掛かった顷、出张先の京都で鸭川のほとりで数时间熟考した末に「やらずに一生后悔するよりも、やはり国际协力のプレイヤーを目指そう」と决め、国际协力机构(闯滨颁础)の中途採用募集に応募し、総合职として闯滨颁础职员になりました。

闯滨颁础では水に関する部署に配属され、アジアを中心に様々な国の水资源管理や洪水対策、上水道案件などを担当しました。それまで大学で身につけてきた理论的知识を土台にしつつ、现场ベースの知识を山のように学ぶ日々で、文字通り水を得た鱼のように现场を駆け回り、先方政府と交渉や、技术文书の読みこみ、そして不足知识のアップデートに明け暮れました。

ちょうど东日本震灾から10年が経ちますが、防灾事业は闯滨颁础で携わった业务の大きな柱でした。チュニジアやフィリピンなどの个别治水案件に加え、2015年3月に第3回国连防灾世界会议が仙台で开催され、その企画?準备に携わりました。そしてその翌月にネパールで大地震が起きました。私はもともと5月からネパールに赴任予定だったので、会议后最初の大きな灾害として世界の注目を浴びる中、ネパールに飞び込み、日本政府による巨额の復兴支援パッケージの组成に携わりました。

さらに水を极めるため、世界银行に入行

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イラク出张中は外出时常に防弾ベストを着用します。
闯滨颁础では现场の仕事に従事するという自分の中での目标を达成できて、手応えを感じていたのですが、当时の闯滨颁础の人事制度では、継続して水分野を担当するというキャリアパスは难しく、そして自分自身はまだ専门分野である水を极められたとは思えませんでした。そこで闯滨颁础で培った现场経験を活かして、さらに水の専门知识を深められる机会を模索し始めたところに、世界银行の日本人採用プログラム(顿贵厂笔)のミッドキャリアのポジションの募集がありました。职务内容を见てみると、自分のために準备されたようなポジションで、世界银行の知人からもまさに私の専门性が求められるポジションだと闻き、応募したところ採用され、ネパールから世界银行本部のあるワシントン顿颁にやってきました。

世界银行では、オペレーション部门で、プロジェクトサイクルの全てに関わる仕事をしています。まず対象国の水セクターをレビューしてそれをレポートの形にまとめ、课题があればプロジェクトを策定し、プロジェクトの承认が下りたらそれを実施するというのが1つのサイクルですが、国别にこのサイクルの中の异なる部分を担当しています。例えばエリトリアとボツワナでは国レベルのセクター分析をし、ナイル川委员会(ナイル川流域の10カ国による平和的な水利用を调整する机関)の技术支援プロジェクトはもうすぐ承认が下りる段阶、ナイジェリアの灌漑整备案件は実施段阶の佳境を迎えています。

本来、私の担当は东?南アフリカ地域なのですが、世界银行ではクロスサポートと言って、部署を超えて様々なプロジェクトチームに参画することができます。特に私の场合は、入行当初担当案件が少なかったので、多くのチームリーダーに会って自己绍介して、社内営业してどんどん参加しました。その中でも、博士论文の研究テーマであったイラクの水资源案件に携われたのは非常に幸运でした。最近は担当案件をアフリカに集约できてきましたが、これまで自分の携わった国のフォルダを数えてみたら、24カ国もありました。

培ってきたものを総力戦で

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ナイジェリア?ザムファラ州にて。灌漑プロジェクトに不安を抱く受益住民100人以上に囲まれながら、事业内容と便益の説明をしました。
世界银行では、今までやってきたことの全てが役に立っているとも言えますし、培ってきたもの全てを、総力戦で出さないと生きていけないとも感じています。既往研究や文献を咀嚼して整理すること、それらを踏まえた上での状况分析だけでなく、骋滨厂やリモートセンシングなどの技术を理解していることはとても役立っています。例えば日本では技术的な分析は开発コンサルタントが行い、援助机関职员は上流の方针を决めるという役割分担がなされています。でも世界银行ではそれが柔软に运用されており、かつ提案力が歓迎される文化があるので、日本であれば开発コンサルタントがするような技术的分析や提案も世界银行では职员が积极的に行い、それが评価されています。また闯滨颁础时代に培った、途上国政府との駆け引きなども间违いなく必要な技能です。

先方政府とやり取りする际も、技术的なことも政策的なこともわかっていることで相手を安心させられるという意味で、今まで培った全ての技能が役立っています。

世界银行でしか味わえない醍醐味とは

醍醐味としては、1.先方政府と本腰で议论できること、2.个别プロジェクトだけでなく、上流の政策面にも関われること、3.世界中のリソースを活用できること、が挙げられると思います。やはり世界银行では、个々人の担当领域がシームレスである分、本人さえやる気になれば、ワシントン顿颁にいながら先方政府と携帯电话やテキストメッセージで日々やり取りし、些细な相谈に乗ったり、逆に提案したり、形式的ではない関係を筑けるのが大きな魅力です。それに相手政府も世界银行には耳を贷してくれることが多いため、ダムを作るといった个别案件から発展して、大枠の政策についても议论できる点にもやりがいを覚えます。さらに、世界银行のプロジェクトでは世界中の専门家リソース(民间公司や研究者など)を活用でき、日本国内にとらわれずに适材适所のリソースを割り当てられるという面白さがあります。

「パスをもらったらシュートを打て」

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个人的なチャレンジとしては、多くの日本人职员は既に留学や海外経験が豊富な中で、私はずっと日本の大学でやってきたので、日々英语で仕事することは大きなハンデです。それは普段から极力準备し、メンターをつけたりして努力しています。

世界银行入行当初は、最初はどこからも声がかからなくて、多くの人に会っても反応も良くなく、もうどうすればいいんだと鬱々とした日もありました。そんな中で励まされたのが、当时ジョージワシントン大学バスケットボール部にいた渡边雄太选手でした。彼は类稀なる才能に恵まれていますが、それでも狈叠础への挑戦は顺风満帆とは言えず、日本人としての强みと弱みを分析し尽くした上で常に努力と挑戦を続け、狈叠础选手としてのステップアップを続けてきました。次元こそ违いますが、彼の置かれた状况は世界银行职员にも通じるものがあるんです。自己分析して力を伸ばし、どんどんアピール?挑戦していかなければ生きていけない。

日本人の多くは黙々と努力することは得意ですが、それを前面に押し出すというのはあまり得意ではありません。しかし、やはりそれだと国际社会では生きていけないという点で、バスケットボールも世界银行も同じです。「パスをもらったら逃げずにシュートを打て」というのは职场の大先辈でありバスケ爱好仲间でもある西尾副総裁の言叶ですが、至言だと思います。どうしても逃げたくなる自分がいますが、そういう时は、「あれほど才能に恵まれた渡边选手でさえあんなに顽张っているのだから、自分はもっと顽张らねば」と自らを奋起させています。

将来のビジョンは

私の分野は、持続可能な水利用、洪水の予防、农业の生产性向上など、やるべきことが世界にたくさんあるので、それを粛々とやっていくっていうこと自体にやりがいを感じ、もっと様々な国で取り组んでみたいと思っています。特に、今はワシントン顿颁本部にいますが、やはり现地事务所にいると、よりその国に沿った协力や支援ができるので、现地事务所勤务も魅力です。

一方で、途上国自身も変わっていて、必要な支援内容も変わってきています。今後どのように支援するのか、世界銀行のような公的支援が良いのか民間セクターからアプローチすべきかなども視野に入れて考えています。さらに日本に対する思い入れもあり、世界銀行で培った知識を、日本の国際協力に活かしたいとも思います。要はやりたいことがたくさんあり過ぎるのですが、まずは目下の課題に取り組みながら、時々どこかで立ち止まって、また水辺を見ながら「何をすべきなんだろう」と考えたいと思います 。

世界银行を目指す人へのメッセージ

人生の方向性の决め方と、方向転换の仕方、という2つの侧面からメッセージを送りたいと思います。まず人生の方向设定については、「何を勉强すれば良いか」という相谈をよく受けますが、自分の胜负する分野との出会いには运命的な要素が多分にあり、一概に何に取り组めばいいとは言い难いです。ただ、それと出会うためのアプローチの一つが、インプットとアウトプットの両方をバランスよくやることだと思います。本を読むなどして情报を得て咀嚼するのがインプットで、実际に现场に行ってみたり人と议论したりするのがアウトプットです。この両者の反復を意识的に続けることで取り组むべき课题が徐々に见えてくるのではないかと思います。私の场合は、最初灌漑に锚をおろし、そこから水の别のところに知识体系を広げ、自分の领域を広げていきました。

そして方向転换の仕方については、研究者だから大学教授を目指さないといけないとか、一度金融业界に入ったからずっと金融とか、世间一般で言われる定番の道というものがあると思いますが、それに囚われすぎる必要は全くないと思っています。自分自身にとって一度限りの人生、别に东京大学の教员が闯滨颁础の総合职员になってもいい。周りと违うことをやる分苦労も多いですが、それはそれでかけがえのない経験ですし、むしろその経験が私の武器を増やしてくれて、结果的に人と差别化できているようにも感じます。要所要所で転ばぬ先の杖を整えながら、少しずつ自分の未知の领域に挑戦されてみてください。

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