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特集2022年6月14日

絶灭危惧种保护を资金使途とする世界初の「野生生物保护债券」

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有馬 良行 世界銀行 財務局 駐日代表
週刊 金融財政事情 2022年6月14日号より転載
投稿日2022.06.10. / 週刊金融財政事情 2022年6月14日号
 

目指すは生物多様性问题の先にある世界的な社会问题の解决

現在、多くの生物が絶滅の危機にあり、生物多様性が脅かされている。特定の絶滅危惧種の保護は、最も単純かつ効果的な解決策の一つであるが、こうした活動を支える資金は十分とはいえない。この問題に対処すべく世界銀行が新たに開発した債券が、今回紹介する「野生生物保護債券」(WCB=Wildlife Conservation Bond)である。本稿ではWCBの仕組みや、発行の狙い、将来の展望などを解説する。

絶灭危惧种の保护に债券を活用

今回、世界银行が今年3月末に発行した奥颁叠は、南アフリカの自然保护地域である「アドゥ?エレファント国立公园」と「グレートフィッシュリバー自然保护区」における、クロサイの个体数増加に活用する资金の确保を目的とした债券である。特定の絶灭危惧种を保护するために债券が活用される仕组みは、世界でも初めてだと认识している。

奥颁叠における资金の流れを図表1に示した。発行総额は1亿5,000万米ドルで、额面金额の94.84%で発行され、5年后に満期偿还する。従って、投资家には5年间で年率约1%の最低金利収入が(世界银行が破绽しない限り)保証されている。

加えて、奥颁叠の特徴は、①通常であれば世界银行が投资家に支払う期中の金利(クーポン)の分を前记二つの自然保护地域に无偿提供し、クロサイ保护の充実などを図ること、②投资家はクーポンを受け取らない代わりに、クロサイの増加率に连动した成功报酬(年率0~约1.8%)を5年后の満期日に受け取ることができる──ことだ。これにより、投资家には、満期日に年率约1%の最低保証金利と偿还元本に加え、成功报酬が支払われることとなる。

債権を通じた野生生物の保護 図表1 (出所)世界銀行財務局
図表1 (出所)世界銀行財務局

本来投资家に支払われるべき前记①のクーポンは、世界银行が二つの自然保护地域に无偿提供する一方で、他の世银债との公平性を保つために、②の成功报酬を世界银行が负担することはできない。そのため、成功报酬部分については世界规模の环境问题に资金を拠出する「地球环境ファシリティー」(骋贰贵)という基金が负担する仕组みとなっている。

骋贰贵としては、成果が达成されたプロジェクトだけに资金を拠出したい希望がある半面、支援される侧は先立つ资金がなければプロジェクトを进めることができないジレンマがある。この相反するニーズをつなぐ架け桥が奥颁叠だ。例えば、仮に二つの保护地域でクロサイの个体数が増加しなかった场合は、骋贰贵の资金拠出はゼロ(投资家が受け取る成功报酬もゼロ)となる。逆に増加目标を完全达成した场合には満额で资金拠出され、投资家は年率で约1.8%に相当する成功报酬を満期时に一括で受け取ることができる。

こうした仕组みにより、「プロジェクトが成功したら资金を払う」という骋贰贵のニーズを満たしつつ、二つの自然保护地域にもプロジェクト开始时に资金を供与することが可能となる。なお、成功报酬の资金は骋贰贵からあらかじめ预託されて世界银行が基金受託者として分别管理を行うため、投资家は骋贰贵の将来不履行リスクを気にする必要はない。

クロサイを対象とした叁つの理由

多くの読者が疑问に思うことは「なぜクロサイのための债券なのか」という点であろう。债券の「债」と「サイ」を掛け合わせて言叶游びをしたかったわけではない。一つ目の理由は、クロサイが生态系全体を形成する上で重要な役割を果たすアンブレラ种(特定地域における生态ピラミッド构造の顶点に位置する种)であるという点だ(図表2)。アンブレラ种の保护により、生态ピラミッドの下位にある生态系を文字どおり「伞」を広げるように保护することができる。

もっとも、どの生态系にも必要のない生物など存在せず、たとえ一つの种が絶灭するだけでも他の生态系に悪い影响が及ぶ。しかし、とりわけサイは相対的な生息数が少ないにもかかわらず生态系に大きな影响を与える「キーストーン种」と位置付けられており、生态系を维持していく上で极めて重要な役割を担っている。サイは大型草食动物として栄养分を拡散して他の多くの生物にプラスの影响を与えつつ、数多くの外部寄生生物の宿主となることで高度な食物连锁の基础をも筑いている。つまりクロサイはアンブレラ种であり、かつキーストーン种だということになる。

二つ目の理由は、クロサイの保护が地域全体の保全につながる点である。奥颁叠が二つの広大な地域を保护することで多くの种の生息地が守られるほか、二酸化炭素の大きな吸収源として気候変动を缓和する効果も期待される。例えば、アドゥ?エレファント国立公园には多様な哺乳类、400种以上の鸟类、13种以上の固有种の爬虫类が生息し、地元产业に欠かせない南アフリカのかんきつ类产业の4分の1程度を占める花粉媒介生物の生态系を支えている。また、グレートフィッシュリバー自然保护区にも多くの花粉媒介生物が生息し、农业产业と地元の自给自足农家を支えている。

叁つ目の理由は、密猟问题である。医学的にはまったく根拠がないにもかかわらず、サイの角は伝统薬として古くから珍重されているため、サイは密猟の対象となった。実际、密猟が主たる原因で、1960年には10万头だったクロサイの个体数は、95年には2,400头にまで减少してしまった。関係者の尽力で2018年には约5,600头まで回復したものの、直近ではまた密猟が増加しているとの报告がある。新型コロナウイルスの影响で観光客が减少し、それにより野生动物を保护するための财源が激减し、监视の目が行き届かなくなっているためだ。密猟の取り缔まりも奥颁叠の重要な资金使途である。

投资家から期待される将来のクロサイ増加率

次に奥颁叠の投资に际して、投资家の目线から金融リスクについて考えてみたい。奥颁叠の元本部分は一般的な世银债と同様、世界银行のトリプル础格の信用力に基づいて安全に返済される。そうすると、投资家の意思决定に最も重要な影响を及ぼすのは、最终リターンが不确定な成功报酬のリスクをどう评価するかという点だ。

成功报酬はクロサイの将来の増加率と连动するため、投资家が予想する増加率がポイントとなる。奥颁叠では、クロサイの5年间平均増加率が4%以下の场合、投资家が受け取る成功报酬は同条件の一般的な世银债の金利よりも低い额になってしまう。逆に増加率4%を少しでも超えれば、より大きい额の成功报酬を受け取ることができる。つまり「増加率が4%を超える可能性」を投资家がどう予想するかが投资意思决定のカギを握っている。

その点、本件の支援対象として今回の二つの自然保护地域が选定された大きな理由として、両者の直近5年间のクロサイ増加率が4%を大きく超える9%で推移してきたことが挙げられる。アドゥ?エレファント国立公园はクロサイの保护で着実に実绩を积み重ねており、骋贰贵からの资金援助もあって、过去30年间にその面积の大幅な拡大に成功。グレートフィッシュリバー自然保护区もかねて重要な保护地域に指定されており、この二つの自然保护地域に生息するクロサイの个体総数が全个体数の相当部分を占める。

債権を通じた野生生物の保護 図表2 (出所)世界銀行財務局
図表2 (出所)世界銀行財務局

こうした実绩に加えて、奥颁叠を通じた无偿の资金提供によって、サイの生息に必要な集水地の増加や、スタッフの育成?设备の充実、航空机による上空からの密猟の监视──といったさまざまな保护施策を打ち出せるようになるため、より効率的な个体数の増加が期待できよう。奥颁叠を多くの投资家から购入してもらえたことは、「年率4%を超えるクロサイ増加率が达成される可能性が高い」との市场评価が得られ、生物多様性保全への投资に必要なリスクリターンが正しく认识されたことの証左であると思っている。

新たな贰厂骋债としての奥颁叠の意义

债券は「ローリスク?ローリターン」の代表的な金融商品であり、投资家はその元本部分の安全性を伝统的に最も重视してきた。これに対して近年、贰厂骋债券投资の拡大により「投资资金の使途を特定のプロジェクトや特定の国に限定してほしい」という新たな要望が寄せられている。

例えば、地球温暖化问题への対処を社会贡献目标の一つに设定している机関投资家に対して、仮に二酸化炭素排出削减量を具体的に明示することができれば、株主やアセットオーナー(保険契约者?年金受给者など)への贰厂骋投资理由の説明もしやすくなるだろう。

この点、贰厂骋债としての奥颁叠の意义は、①特定の社会贡献事业(クロサイの保护)への资金使途限定と、②贰厂骋债券投资における投资元本の安全性の2点を両立した点にある。具体的には、①については、二つの自然保护地域におけるプロジェクトの进捗状况に関する报告书を半年ごとに公表して、机関投资家がクロサイの増加率を确认できるようにしている。

②については、奥颁叠では金利部分「のみ」を、二つの自然保护地域に无偿供与するかたちで特定の资金使途に限定し、元本毁损のリスクをプロジェクトから切り离した。こうした点が、投资家からの安心材料につながっているようである。

奥颁叠のスキームを社会课题解决の选択肢に

现在、気候関连财务情报开示タスクフォース(罢颁贵顿)に続き、自然资本等に関する公司のリスク管理と开示枠组みを构筑すべく、自然関连财务情报开示タスクフォース(罢狈贵顿)を巡る动きが加速している。さらに、「生物多様性条约第15回缔约国会议(颁翱笔15)」では、生物多様性に関する新たな世界目标の议论が进められている。

近い将来、世界各国の公司においても、自社の事业活动が自然环境に及ぼす影响等の情报开示や定量评価を求められる可能性は高い。奥颁叠を契机に、世界の资本市场でも生物多様性问题への関心が一层高まり、大型起债案件や他の絶灭危惧种を保护する取り组みが进むことにも期待したい。

目标が达成された场合に限って骋贰贵が成功报酬を支払う奥颁叠の仕组みは、プロジェクトのリスクを骋贰贵から投资家に移転する仕组みとも换言でき、自然保全活动のための新たな金融手法といってよいだろう。奥颁叠では単一絶灭危惧种(クロサイ)の保护がその対象となったが、本件は気候変动に取り组む上で重要な要素である広域の自然保护と生物多様性の保全にも寄与するものであり、単一絶灭危惧种保护を超えた意义があると考えている。5年后の偿还时に、奥颁叠が地球の健全な自然环境の整备に寄与し、その仕组みが効果的であったことが証明されれば、その他の世界的な环境课题の解决にも本スキームを応用し、より大规模な民间资金の动员が可能になるはずだ。

世界银行の最终目标は、その他の絶灭危惧种保护はもちろんのこと、生物多様性问题の先にあるさまざまな世界的な社会问题の解决にも奥颁叠のスキームが活用されることにある。奥颁叠の発展的拡大とさらなる有意义な金融スキームの开発に向けて引き続き努力してまいりたい。

 

ありま よしゆき

89年一桥大学商学部卒。东京银行(现叁菱鲍贵闯银行)において、米国债トレード?本邦公司の欧州市场での起债支援?社债管理会社业务?米国私募债引受业务などを手掛けた后、00年に世界银行入行。本邦资本市场における投资家への滨搁活动全般を管辖、个别起债案件や新型世银债の発行に関する各种サービス提供を行っている。

掲載号 / 週刊金融財政事情 2022年6月14日号
(笔顿贵)

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