本日はお集まりいただき、ありがとうございます。世界銀行グループは、設立以来初めて、その使命に沿った2つの具体的な目標を設定致しました。一つは2030年までの極度の貧困の撲滅、もう一つは繁栄の共有の促進です。最初の目標を達成するために我々は、1日1.25ドル未満で暮らす人々の数を、向こう15年以内に世界人口の3%未満まで減少させる事を目指しています。二つ目の目標を達成するためには、途上国の所得の下位40%の人々が、国全体の平均よりも高い割合で経済成長の恩恵を享受できるようにする必要があります。この目標達成のための唯一の方法は、より包摂的で社会的に持続可能な経済成長を、環境を守りながら加速させていく事です。 これこそ、我々が描いている計画です。
この2つの目标は、いずれも野心的なものです。一世代の间に贫困という悲剧を扑灭する。これを人类史上初めて、我々の世代の间に実现できるかもしれないのです。そう考えると、身が引き缔まる思いです。1973年に、ロバート?マクミラン元世界银行総裁は贫困を、「読み书きもできず、病気や栄养不良に苦しむ悲惨な状态で、生きていくために最低限必要な物すらない」と表现しました。现在、10亿近い人々が、そうした状况で暮らしています。しかし、この目标を达成できれば、そうした人々がわずか15年以内にそこから抜け出す事ができるのです。
今回私は、「第叁回国连防灾世界会议」に出席するために来日致しました。自然灾害への备えが整わない限り、世界银行グループの目标の达成は厳しいものになるからです。日本政府はこれまで、専门知识の蓄积という重要な取り组みを支援し、自らの持つノウハウを世界と共有するなど、世界の防灾分野において际立ったリーダーシップを発挥してこられました。安倍総理をはじめとする政府の皆様は、この分野における我々の一番のパートナーです。各国が将来の自然灾害に対する备えを整えるためには、これからも日本の支援が不可欠です。
我々はこの问题に、これまで真剣に取り组んできました。灾害は、地质学的、気象学的、生物学的のいずれであろうと、悲剧的な结果をもたらします。人の命を夺い、経済成长を大きく减速させます。过去30年间に世界全体で、自然灾害の犠牲者は250万人以上を数え、被害総额は4兆ドル近くに上りました。また、灾害関连の犠牲者の内、4分の3以上を途上国が占め、半分近くを低所得国が占めています。
2010年、ハイチでは、10年以上かけて达成された経済成长が地震により失われました。2013年には、フィリピンを直撃した台风「ハイヤン」により、50万近くの世帯が贫困状态に陥り、最も被害が深刻な地域では贫困率が56%まで悪化しました。さらに、この16カ月の间には、エボラ出血热の大流行による死亡者数が、ギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国で合计1万人近くに上っています。ここで改めて申し上げたいと思います。今回の大流行の封じ込めは、まだ终わっていません。そして経済への深刻な影响は、症例数がゼロになるまで今后も続いていく事でしょう。世界银行の试算では、2015年にはエボラ危机により、これら3カ国で16亿ドルもの経済成长が失われると推定されています。エボラ危机発生以前は世界でも高い水準にあった3カ国の成长率は、ゼロ成长、又はマイナス成长になると见られます。
肝心なのは、贫困の扑灭のためには、いかにして灾害リスクを管理し、防灾知识を积极的に発信するかについて理解を深める事です。気候変动に伴い、极端な気象现象は频度と激しさを増し、期间も长くなるでしょう。つまり、干ばつや地震、台风のもたらす灾害リスクは今后、悪化の一途をたどる事になると考えられます。
こうした展开により大きな影响を被るであろう民间セクターも、そのリスクについて十分に把握しています。2013年、保険业界の干部を対象に行われたタワーズ?ワトソンの调査では、干部らが最も恐れているリスクは、感染症の大流行、ハリケーン、地震でした。また、世界経済フォーラムが発表した今年の「グローバル?リスク报告书」によると、主要公司の颁贰翱を含むビジネス界のリーダー达は、最も深刻な経済リスクとして环境面の胁威を挙げています。
こうした见方は、灾害リスクに対する十分な事前準备が整っていない事が大きな要因になっています。世界経済フォーラムのリスク报告书は、公司経営者などビジネス界のリーダーがこう结论付けた理由を、「异常気象や気候変动などの课题に対処するには、现状の备えでは不十分だとする専门家の声が大きくなっている」からだとしています。我々も同じ悬念を抱いています。しかも、リスクや発生し得る损害とは、経済的に余裕がない小国でこそ拡大するという事を付け加えたいと思います。
过去20年间、国际社会が灾害救助、予防、事前準备に対して誓约した拠出额は1,100亿ドル弱に过ぎません。近年、灾害復旧の関连コストは世界全体で今や年间平均2,000亿ドル近くに上り、しかもその75%近くが気候関连の灾害によるものである事を鑑みれば、1,100亿ドルという额は决して多くない金额です。その上、灾害援助の内、予防と事前準备に充てられた额はわずか10%强です。対照的に、日本は、防灾予算の约80%を事前準备に充てています。
日本が、灾害に対する事前の準备を重视するのには、もっともな理由があります。
2013年秋、インドに上陆したサイクロン?ファイリンにより不幸にも40人が犠牲になりました。しかし、1999年に発生した同规模の暴风雨では、1万人の犠牲者が出ています。この差は、インドの人々に备えがあったからです。新たな早期警报システムと、サイクロン?シェルター网の充実により、90万人が暴风雨を逃れ、安全な场所に避难できました。我々の试算では、早期警报システムに対する1ドルの投资は、资产や公司活动の损失を防ぎ、4ドル~36ドルの経済的利益をもたらす可能性があります。
世界银行などが行った调査では、灾害への备えを怠ると、贫困扑灭のための最も强力な推进力となる経済成长が钝化する可能性が指摘されています。具体的には、予防策が不十分だと、投资の际に过度のリスク回避をしようとする行动様式につながる恐れがあります。この倾向は、过去に自然灾害を経験した事のある人に特に顕着に见られます。个人投资家も机関投资家も、とにかく资金をリスクにさらさない事を优先します。これと同じ倾向は、エボラ出血热の大流行でも见られます。感染のリスクを避けようとするあまり、人々は経済活动から远ざかるようになります。世界银行グループの分析によると、ギニア、リベリア、シエラレオネでの経済成长钝化の大半は、こうしたリスク回避の行动が原因です。
この点を踏まえ、我々は、防灾分野において、改めて途上国での予防と事前準备の充実を図っています。例えば、昨年7月以降、最贫国を支援する国际开発协会(滨顿础)の全ての开発プロジェクトにおいて、リスクのチェックを行なっています。また、各国における世界银行の支援の指针を表した国别パートナーシップ枠组みにも、こうした情报を组み込んでいます。つまり今后、最も贫しく立场の弱い国々における世界银行グループのプロジェクトは、取りも直さず自然灾害や気候変动への备えをしっかりと整えたものとなっていくのです。
我々はまた、途上国が自然災害への脆弱性を軽減し、気候変動に適応できるよう、様々なパートナーと協力しています。日本はこの分野において特に重要なパートナーです。 2012年に開催された仙台会合の後、途上国の防災を支援するため、1億ドル規模の「日本-世界銀行防災共同プログラム」が立ち上がりました。また东京に防災ハブを設置し、各国のプログラム、投資家の投資計画、世界銀行グループのプロジェクトに役立てていきます。
自然灾害に备えるための最も重要な措置のひとつは、事前準备のために迅速に资金を确保できるようにしておく事です。日本では、この考え方もまた浸透しています。例えば2008年、日本の农业机构である闯础共済は、ドイツの再保険会社であるミュンヘン再保険からキャット?ボンド(大灾害债券)を购入しました。これにより、あらかじめ设定された一定の基準を満たす事态が発生した际、闯础共済に最大で3亿ドルが支払われます。2011年の东日本大震灾では、キャット?ボンドとして初めて地质学的な灾害被害に対する保険金が支払われました。
日本は、途上国政府に対する同様の革新的资金调达メカニズム提供を目指す世界银行グループの取组みに、支援をしています。2008年以降、我々は、灾害発生の际に直ぐに復旧?救援资金を确保できるよう9カ国を対象とする条件付きクレジットラインを计13亿8,000万ドル承认しました。また、日本の支援により、太平洋自然灾害リスク保険パイロット?プログラムにも资金を提供しています。このプログラムの下で太平洋岛屿国は、2014年、地震、津波、热帯性低気圧のリスクに対し4,300万ドルの补偿を确保する事ができました。
こうしたイニシアティブの成功を踏まえ世界银行グループでは、例えば感染症の大流行など、十分な资金がない危机的状况での、同様のアプローチの有効性について検証しているところです。こうした手段の必要性は、エボラ危机が示す通りです。今回の危机では、その深刻さから世界银行グループはただちに、ギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国の政府に対し、紧急対応资金として総额で5亿ドル以上の资金提供を誓约しました。しかし、我々を含む国际社会は事态の紧急性を充分把握していなかったため、この资金が実际に支払われ始めたのは危机が始まってから8カ月も后の事でした。
エボラ危机から得られたこの重要な教训を肝に铭じておかなければなりません。次のアウトブレイク(大流行)の际には、もっとずっと迅速に対応する必要があります。そのために、世界银行グループは现在、感染症のパンデミック(世界的な大流行)の际の紧急融资制度の构想を练っているところです。我々が目指すのは、パートナーと协力して、一定の客観的基準を満たす感染症アウトブレイクの际、十分な资金を迅速に提供できる体制です。また、ここで言う「迅速」とは、8カ月后ではなく、8时间后です。
パンデミックの际の融资制度のもう一つの重要な目的は、事前準备に対する各国の投资拡大を促进する事です。まずは、强靭で确かな保健システムの构筑からです。エボラ危机は、疾病调査から分析研究、最前线の保健医疗サービス、地域医疗従事者まで、公众卫生机能が不十分だとどのような事态を引き起こすかを、まざまざと见せつけました。人命は失われ、経済成长率は低下し、当该国や周辺国ばかりか世界全体が危机に濒する事になるのです。こういった展开を见ると、このほど日本が、エボラ危机からの復旧復兴のために世银のトラストファンドに2千万ドルを拠出された事には、极めて大きな意味がある事がわかります。
歴史上最も深刻なエボラ出血热のアウトブレイクから、我々は多くの教训を得ました。こうした知识をつなぎ合わせていけば、感染症のパンデミックという困难に立ち向かえるグローバルな対応能力とはどうあるべきかが、见えてくるでしょう。
それは、迅速な资金提供の仕组み、大きく机能强化された世界保健机関(奥贬翱)主导による世界の専门家间の紧密な调整、周到に準备されよく统制された医疗専门家やロジスティックスのプロ、运送?製薬?広告公司のチーム、国连机関挙げての対応、国际金融机関や民间金融机関による支援などです。
また、事前準备における最も重要な要素とは、すべての国にしっかりと机能する保健システムを确立する事でしょう。
强靭な保健システムは、ユニバーサル?ヘルス?カバレッジの达成を目指すものでなければなりません。つまり、谁もが基础的保健医疗にアクセスができ、贫しいからといって医疗の质が落ちるなどという事があってはなりません。保健システムへの投资が、より良い健康状态の実现と経済成长加速の両方に対する投资になる事を、我々は承知しています。日本は、ユニバーサル?ヘルス?カバレッジの分野においても世界の模范となっています。すべての人が保健医疗を受けられるようにする事は、低所得国と中所得国のどちらにとっても极めて重要です。世界银行グループは、日本との紧密なパートナーシップの下で、防灾とユニバーサル?ヘルス?カバレッジという2つの分野で取り组みを进めています。これらは、感染症の次の大流行から数百万の人々を、そしてグローバル経済を守るためのカギを握る分野です。
パンデミックに対する紧急融资制度については、数カ月后には更に详しくお知らせできる予定です。本日こうして述べた理由から、我々は、自然灾害への备えとユニバーサル?ケアにおける日本の経験を参考にさせて顶きたいと思います。日本の知见は、适切な事前の备えがあれば何千人もの命を救う事ができ、何十亿ドルもの経済成长を失わずにすむ事を示しています。极度の贫困の扑灭にも贡献できるのです。ご清聴ありがとうございました。それでは、ご质问をお受けいたします。